本を片手に

一人静かに本を読みたい気分になる時がある。

大きめのカップにミルクたっぷりのカフェオレと耳障りのいいBGM。

音楽やラジオもいいけれど、少し遠くに聞こえる潮騒と優雅に空に遊ぶトンビのピーヒョロロという鳴き声の組み合わせなんか最高だ。

もちろんそんな日の天気は快晴、イスは白く塗られた肘掛け付きのウッドチェア―と相場が決まっている。
しかし、まさかそんな素的な環境に住んでいるはずもなく、部屋の窓を開ければ、そこは郊外の住宅地の喧騒とありふれた風景。
潮騒など聞こえてくるはずもない。

しかし、それはそれ。
気持ちの持ちようで何とかなるものだ。
お気に入りの海の写真でも1枚壁にかけておけばいい。
その場所に自分が居ると思えばいいのだから。

ほら、目を閉じれば潮騒やトンビの鳴き声まで聞こえてくる。
もちろん、そのまま目を閉じていては本を読めないけれど。
そう。
もうここは海の見えるカフェのオープンテラスなのだ。


風の涼しさが心地よく感じられる頃になれば、暖かな日の光に誘われて、思い切って海まで足を伸ばしてみるのもいい。
すばらしい景色と音と香りに胸ときめかす海までの道のりも、また楽しい。
電車で行くなら、線路のゴトンゴトンという音をBGMに本を読んでもいいし、乗り降りする人々の服装に春を感じてみるのもいい。

車なら少し窓を開けて、ヒュ―と風が奏でる音を楽しみながらドライブすれば、日ごろの悩み事なんかすっかり風に流されて、楽しい気分が胸をいっぱいにしてくれる。
オートバイで出かけるなら最高だ、ただ走るだけで風になれるのだから。

海に着いたら、まずは、大きく潮風を吸って胸を海の香りでいっぱいにする。
浜辺にあぐらをかいてもいいし、テトラポットを背もたれに座ってもいい。
海辺に遊ぶカモメや、潮干狩りに興じる家族ずれを眺めつつ、缶コーヒーなどを傍らに置けば準備OK、あとはゆったりと本を広げればそこに緩やかに時間の流れる空間が出来上がる。
さあ、ようこそおとぎの世界へ。


本を読むのに疲れたら、心の扉は開けたまま目を閉じて自然の素晴らしさを満喫する。

うららかな春の日差しと、心地いい風と、耳をくすぐる潮騒に誘われるまま、手にした本も閉じてしばし夢の中へ誘われてみるのもいい。

そのまま夢の中で、物語の主人公に会いに行く。
私なら、無人島に流れ着いたロビンソンクルーソーや筏で河をくだるハックルベリーフィンに会いに行き、素晴らしい冒険の数々を聞かせてもらうだろう。

再び目を開けると、先にもましてキラキラと眩い光を放つ水面が、幾重にも折り重なった紺色のビロードのように広がっている。
太陽が東に傾き、海からの風が少し冷たく感じられるようになったら、そろそろ帰り支度だ。

目を閉じればすぐそこに海が現れるくらいに、素的な景色と体に感じる海の気配を心の中に満たす。
名残惜しさを本と一緒にポケットに押し込み帰路に就こう、心に隙間なく海のお土産を詰めて。

さあ、あなたも暖かな日差しに誘われるまま、本でも読みに海に出かけてみませんか。
きっと素的な時間が過ごせるに違いありません。

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