ユウとカエルの王様
小学1年生のユウはトモ君、リュウ君と一緒に
公園の池の縁にある秘密基地で遊んでいます。
「ザリガニの穴を見つけたんだ、行こうぜ」トモ君が提案します。
3人は得意げなトモ君を先頭に穴を見に行きました。
池に捨てられたビニール袋の陰に大きな穴が開いています。
きっと大きなザリガニが住んでいるにちがいありません。
ジャンケンで負けたユウが穴に手を入れて捕まえることになりました。
「すごく深いぞ」
腕が、もう肘まで入っています。
不安な表情を浮かべながらも、さらに奥へとユウは腕を伸ばします。
「あっ、何かいる。よし、一、ニの三」
ユウは指に触れた物をがむしゃらに掴んで一気に腕を抜きました。
「痛たたっ」
目を閉じて叫んだユウの指に、大きなザリガニがぶら下がっています。
地面に置くと指を放したザリガニがハサミを振上げて怒っています。
「すげーでかい」
「ザリガニの王様だ」
「指がちぎれるところだったよ」
興奮した3人は口々に喋ります。
その時です。
「このザリガニ卵持ってるよ」
リュウ君が気付きました。
「本当だ、逃がしてあげなきゃ」
ユウが言うと
「ダメだよ、せっかく見つけたのに」
トモ君が反対します。
「絶対に逃がしてあげなきゃダメ」
ユウも一歩も譲りません。
結局、三人は逃がすことにしました。
「沢山子供を産んでよ」ユウはそう言いながら池に戻してあげます。
最初は反対していたトモ君とリュウ君も池に戻っていくザリガニを見て、
なんだかとてもいい気分です。
その様子を、ハスの葉の影でじっと見ていた生き物がいました。
大きな口と、飛び出た目を持つ生き物はその様子を見届けると、
安心したように池の中に姿を消しました。
その晩、ユウは耳元で囁く声で眼が覚めました。
枕元の電気をつけましたが、辺りには誰もいません。
変だなと思っていると、
「ユウ君、ここです」また声がします。
その方向に顔を向けると、昼間のザリガニがそこにいるではありませんか。
「先ほどは助けていただきありがとうございました。
王様がお礼に私たちの国へ招待したいと言っております」
「ほんとなの、すごいな」
ユウの瞳が輝きました。
「では、私が"どうぞ"というまで目を閉じてください。」
ユウは目を閉じました。
ザリガニはなにやら呪文を唱えました。
「どうぞ、目を開けてください」
ユウが目を開けると、そこは秘密基地の横にある池の葦の茂みです。
しかし、何もかもがすごく大きく、落ちている空き缶でさえユウの背丈ほどもあります。
石の上に、草で編んだ冠をかぶった大きなカエルが座っています。
どうやら王様のようです。
その横に先ほどのザリガニがいます。
周りには沢山の池の生き物たちが円を作り、頭の上には大きなハスの葉で出来た屋根があります。
王様がザリガニを指さして言いました。
「彼女を助けてくれてありがとう。私たちはこの池で生まれた仲間なのだ。君の素晴らしい行動に心からお礼を言いたい」
「大した事じゃないよ。生き物はみんな友達だって、いつもお父さんが言っているんだ」
ユウは少し恥ずかしくて小さな声で答えました。
「ユウ君、君たちはいつもこの池の横で遊んでいるけど、沢山のゴミが池に捨てられているのは知っているかね?」
「うん」
「特に最近、ゴミが増えて汚れてきた。このままでは生きてゆけなくなってしまう」
「えっ、カエルやザリガニの住んでいない池なんてつまんないよ」
「残念ながら、人間たちの中には池に住む生き物の事など少しも気にかけず、池にゴミを捨てていく人もいるのだ」
王様はユウの目をじっと見つめてさらに話し続けます。
「君は彼女が卵を抱えているのに気付いて助けたくれた。実は、そんな優しい心を持った君にお願いがある」
王様はその先を続けるのを少しためらうように目を閉じましたが、意を決したように再び目を開くとユウにこう言いました。
「どうか池をきれいにして、私たちを救ってくれないだろうか」
ユウは池のゴミの事なんて考えたことがありません。
そればかりか、ゴミを捨てたことさえあります。
とても恥ずかしくなってうつむいてしまいました。
すると、王様は、そんなユウ君に気を使って、鼻をヒクヒクさせながら言いました。
「雨の匂いがするぞ、今日は雨だな」
するとどうでしょう、ハスの葉の屋根からパタパタと音がしてきたかと思うと、続いてザーっと雨が降ってきたではありませんか。
「ケロ ケロ ケロ」
周りの草むらからは雨を歓迎するカエルたちの鳴き鳴き声が聞こえてました。
「グワ グワ グワ」王様も一緒に歌います。
ザリガニたちはハサミをカチカチ打ち鳴らします。
気付くと雨で池の水が座っているところまで増えてえてユウのお尻が濡れています。
「そろそろ、君は帰らなきゃいかんな」
王様はユウ君に目を閉じるように言うと呪文を唱えました。
するとユウを呼ぶ声が聞こえてきました。
「ユウ起きなさい」と言っています。
お母さんです。
そっと目を開けてみました。
すると、そこは自分のベットの中でした。
お尻が濡れています。
手を伸ばすとシーツまでびしょ濡れです。
きっと池の水で濡れたに違いありません。
その日、ユウは学校から帰るとカッパを着て大きなゴミ袋を手に池に行きました。
そして一人でゴミ拾い始めました。
周りではカエルたちが 「ケロ ケロ」 と声援を送っています。
その中で 「グワ グワ」 と鳴く、ひときわ大きなカエルを見ると、なんとユウにウインクをするではありませんか。
嬉しくなったユウは一層はりきります。
いつの間にか雨が上もあがり、後から遊びにきたトモ君とリュウ君も自然にゴミ拾いに参加しました。
そのうちに、通りがかった人も一人また一人と参加して、気が付くと池の周囲には沢山の人々がゴミ拾いをしています。
日の傾く頃にはすっかりゴミが無くなって、池には嬉しそうなカエルの鳴き声がひときわ大きく響いています。
ゴミ拾いに参加した人々の顔には、爽やかな笑顔が夕日を受けて輝いています。
そしてユウは「小さな生き物のためにも池を汚さないぞ」と心に誓いました。